山名 元(京都大学原子炉実験所教授)
お手元に私のレジュメが用意してありますので、それに沿いながら、スライドで補強しながらお話をしたいと思います。
まず今、小林さん、舘野さん、西尾さんの3名の方からお話を聞いたんですが、いろんな意見があるわけです。小林さんは歴史的なところからおっしゃっていますし、舘野さんは高速増殖炉に繋がる道筋の話をおっしゃっていますし、西尾さんはそもそも原子力に反対である。いろんな意見があるわけです。ただ、私が今聞いてみまして、かなり誤解が多いと申しますか、最新の知見に基づいていないような話が多いんではないかというふうに感じました。追って説明していきます。
まず原子力が長期的に必要であるということはもう説明を省略いたします。我が国のエネルギー状態から、長期に我が国がエネルギーで安定していくためには、新エネルギーや原子力それから省エネルギー、そのあたりをとにかく併用して、ポートフォリオと書いていますが、リスクを分散した形で我が国のエネルギー供給を構成していかざるを得ない。そのために原子力が一定の割合で使われなければならないというのは既に共通認識でございます。
次に画面の方を見てください。レジュメの方では、使用済核燃料の総合的な管理方策と書いています。プルサーマルというのが何か今の現状に全く新しいものが突然降ってくるというような説明がされることが多いわけです。しかしプルサーマルというのは実は現在動いている発電所から出てくる使用済濃縮ウラン燃料をすべて統合的に管理するための方策の中の一部ということなんです。ここに直接処分型と再処理リサイクル型という絵を2つ用意しておりますが、前の画面をご覧ください。原子力発電所を動かすと使用済濃縮ウラン燃料というのが発生します。これは伊方発電所でも毎年数十トンの使用済濃縮ウラン燃料が出ているわけですが、それは発電所の中に毎年溜めていかれることになっています。最終的に原子力発電所の貯蔵施設が一杯になれば中間貯蔵施設というところに溜めていくことになるわけです。直接処分型の路線では、最後はこの使用済燃料を地層処分と言いまして国土に埋めていくということになるわけです。
それに対して再処理リサイクル型が何を考えたかというと、濃縮ウラン使用済燃料が出てきたら、これを再処理工場に運び出す。つまり伊方発電所から外に払い出す。それを化学的に処理して、プルトニウムだけはもう一度燃える価値を持っているから燃料として濃縮ウラン燃料と一緒に燃やす。高レベル放射性廃棄物と言います核分裂生成物と言われる非常に放射性の強い物質があるんですが、それについては安定な、ガラス固化体と言いますが、高放射性廃棄物にしていく。そうすると次の年になりますとまた使用済濃縮ウラン燃料が出て、使用済MOX燃料が出ます。濃縮ウラン燃料はまた再処理工場に払い出して、MOX燃料はリサイクルします。最終的にこの使用済MOX燃料も再処理することになりますが、地層処分にはこの高放射性廃棄物を出来るだけ早期に処分しようということになるわけです。つまり再処理の路線というのは、使用済燃料を蓄積させるだけではなくて処理していこうという考え方に立っている。
次にこの絵を見てください。これは私が、使用済燃料が国でどれぐらい発生して溜まっていくかということを試算した絵を示しております青い線が累積の使用済燃料の蓄積量です。今現在で実は我が国は2万トン近くの使用済燃料を発生させてきました。そのうちの7,000トンを既に海外の再処理工場に送って処理しているわけです。さらに1,000トンを茨城県の東海村にあります再処理工場に送って処理しております。それから今青森県の六ヶ所村につくった工場に使用済燃料を送って処理するということを行っていくことによって、使用済燃料として貯蔵している分をどんどん少なくして、安定な高レベル廃棄物に変えていく。その早期の地層処分を実現するということをやるわけです。それによってプルトニウムを得ますが、これは舘野先生がおっしゃったように本来は高速増殖炉で使っていくのが一番いい使い方なんですが、高速増殖炉が実現するまで当面まだ40年近い時間があります。その間、現在使われている軽水炉にプルトニウムを供給することによって、使いながらプルトニウムを我々の手中に管理していくというスタイルを取っていこうというのがプルサーマルであります。
結局このスライドにありますようにプルトニウムというのは資源として正の遺産――使わなければ負の遺産です。これを軽水炉発電所に戻しながら持っていこう、使っていこう、消費していこう。それによって濃縮ウラン燃料を節約する。中間貯蔵施設を削減する。
高放射性廃棄物の地層処分を楽にするという方法を取っていこうということであります。
経済的に0.5円程直接処分より高くなりますが、その効果を考えれば、この路線を取ることが現在最も現実的なプルトニウム使用済燃料の管理方策であるというふうに考えているわけです。
使用済燃料の話をいたしますが、前の画面をご覧ください。プルサーマル燃料、MOX燃料が非常に毒性が強いということをおっしゃる方がおられます。前回も伊方の討論会で豊島先生が非常に危ないものだというふうにおっしゃいましたが、実は濃縮ウラン使用済燃料とプルサーマル使用済燃料の放射能というのはそんなに大きく違うものではありません。それはプルトニウムの放射能と核分裂生成物の放射能を合わせてものを考えるべきでありまして、しかも濃縮ウラン使用済燃料を約8.5体排出することによってプルサーマル燃料が1体出来てきます。つまり8.5体を持っていって1つのMOX燃料が出てくるわけですが、その対比をすればはるかに小さくなっているということが分かります。その放射能というのは先程言いましたガラス固化体として安全に地層処分しようとしているわけです。
時間がありませんので簡単にとばしますが、安全余裕について話があったのでこのスライドを用意しました。現在の原子力発電というのは定常時のある状態からある状態に変化することを想定して、さらにその上に安全余裕というのを置いて設計されているわけです。そして異常時に到達出来るレベルから、さらに不確定性やデータや評価手法の不確定性を考慮した上で、ある保守的なレベルを置く。さらにそれを保守的な管理レベルを置いて、最終的に超えてはいけないレベルのずっと前で止めるように設計されているわけです。
プルサーマル燃料の場合には、ここにあります最新の知見や科学的知見を取り入れて、過度な保守性を排除してある設計に持っていく。それを例えば燃料の量ですとかプルトニウムの量ですとか出力の平坦化とかそういう設計を行うことによって、従来のウラン燃料の炉心が持っているレベルと同じ安全性に持っていこうという設計方針を取っているわけですね。ですからこれは決して安全余裕を下げているというものではなくて、従来の安全余裕の中で取り込めるような設計を取り込んでいるというふうに考えるのが正しいと私は思っております。
最後に、核不拡散のお話がありました。日本は国際原子力機関に加盟して、世界的な核不拡散体制を支えております。我が国は平和利用に徹するということを国際原子力機関に認められて、その姿勢を貫いております。ですから歴史的に核兵器の問題であるとか、いわゆる兵器を開発したい北朝鮮ですとかそういった国と我が国の立場を同格にすることは全く間違いでありまして、そのことはこのスライドにありますように、今は国際協調によって原子力先進国が核不拡散を保っていこうという動きに変わってきている。そのためにアメリカやフランス、ロシア、中国などが国際的な再処理、そういったことを進めていこうとそういう提案をしている時代に至っているということを申し添えます。以上です。
|
|
|